エロゲに求められるものはエロよりも「萌え」ですよね

そういえば、ちょっと前に「雫」をプレイしてみたのですが、特に面白いと思いませんでした。評価が高いので期待していたのですが、やっぱこれが発売された当時のエロゲ周辺の事情や状況というのが今とはかなり違っていたのかもしれませんね。別にSF(?)を否定したりはしないけど大マジで毒電波とか言われても、ねえ。エロゲは進化している、のかも。

小説を読まずにエロゲをするのはキャラクターがあるからです。小説がエロゲより高尚という根拠は無いけれど、世には小説というものがエロゲを遥かに超える量が流通していて、またその歴史も古いから累積発行数も段違い、さらにそれを評価する機構もエロゲとはスケールが違う。相対的に小説における良作は多いでしょう。

そういう事についてエロゲーマーは言葉にせずとも分かっている人が多いと思います。だからシナリオの巧拙については多少目をつぶる、というのがエロゲの「読み方」になっているのではないでしょうか。

世に言う「泣ける」というのは、シナリオの巧拙ではなく、設定に因るものであると僕は思います。テクノファンはある種の特定の音が鳴ると涙が止まらなくなることがあると言いますが、それに近いことのように思います。やはり「大切」な人物が「死ぬ」と泣けるとか、話の具体性は特に「泣く」為には重要ではないのではないか。すなわち「泣ける」物語を書くことはそう難しいことではない。エロゲに於いて「泣ける」ゲームが多く作られ、同時に重宝される理由がこことにあると思います。それだけ「泣ける」という要素は問答無用の絶対的優位性を勝ち取っている。

そしてエロゲに於ける「キャラ萌え」がさらに「泣く」事を容易にします。以前も書きましたがプレイヤーのキャラへの思い入れが強ければ強いほど、そのキャラに降りかかる事件が心情的に肉薄したもののように感じられるのですから。これは別にエロゲだけに言える事ではありません。僕たちは映画を見ていても、災害に飲み込まれるエキストラを見て涙を流さないし、悪役がヒーローに殺されるシーンで興奮します。視聴者にとっても好感が持てる登場人物だから涙も流すのです。「セカチュー」でもヒロインが長澤まさみでなく森三中の大島だったらどうか。多分泣くどころか笑ってしまうでしょう。

よくよく考えて、小説に於いて「泣ける」物語が良いという風潮はごく最近にかけて出来たものではないでしょうか。これは逆説的に文学の衰退と捉えられるかもしれません。よくアニメに関して「物語性」が後退し「キャラクター」が重要視されるようになったと言いますが、これは「『泣き』至上主義」と関連しているように考えられます。「泣ける話」が文学的価値として高いものであるか、多分みなさんも理解しているでしょう。

ただ別に僕は文学を守ろうとか言っている訳ではなくて、まあ趨勢があるだけで文学がこの世から消え果ることもないと思っているので、そこらへんはどーでもいいんですが。

それに「泣く」事って言うのは多分気持ちのいいことです。自らを感受性豊かで清廉潔白な人間だと思わせてくれます。だからこそ、「泣き」がある種の快楽としてここまで欲望されるのでしょう。普段は涙などとは縁のない生活をしているにも拘らず、こぞって映画館に行ってはそろって涙を流す、というのは女にモテない人間がエロゲで擬似ハーレムを築く事に似ています。

現代で求められているのは、自らを「人間らしい」人間であることを確認できるための作品なのであり、それが「涙」という誰もが疑わないメタファーに託され、「泣ける」作品が消費されます。

話がずれましたが、エロゲに「泣きゲー」というジャンルが確立するほどに「泣き」の要素が蔓延したのは、シナリオの稚拙さを穴埋めするためのものである、というのが僕の考えです。というかそもそも稚拙であるとか言う以前に、キャラクターを売ることがエロゲに於ける勝利であると考えれば、そもそもシナリオより設定のほうが重視されて当然だったのかもしれません。

とはいえ、やはりシナリオがいい物はエロや「泣き」と無関係に評価されていて、名作エロゲとして名を残しているものもあるので、エロゲもエロゲユーザーもただの動物ではないのだと確信します。エロゲの大半がサウンドノベルの体裁をとっている限り常にテキストの巧拙やシナリオの出来、構成力等が問われるので、エロゲに於いて、万人にとって面白いと思える(万人がプレイする事はないだろうけど)作品が今後とも生み出される可能性は十分にあるでしょう(とか言いつつ「CROSS†CHANNEL」をどのぐらい評価していいのか決めあぐねている僕が居ます)。またエロゲでしか楽しめないエロゲの良さを生かしたエロゲも生まれるでしょう、アリスソフトみたいに。

しかし本当に不思議なのはエロゲに於けるエロへの欲望の希薄さですよね。やはり現実的に性処理をするのであれば、三次元のほうが向いているからでしょうか。